映画「素晴らしき哉、人生!」と進化論

1946年に公開された映画「素晴らしき哉、人生!」(It’s a wonderful life)を観た。この映画を知ったのは、1989年にスティーヴン・ジェイ・グールドが執筆した「ワンダフルライフ-バージェス頁岩と生物進化の物語」という本に触れられていたからだ。本のタイトルは映画への敬意を込めて付けられた。

主人公ジョージ・ベイリーは街の人々の幸福を願い、建築貸付組合を運営してきた姿が描かれている。しかし、映画のクライマックスでは、街の守銭奴のポッターの陰謀によってジョージは破産し、詐欺罪で起訴されてしまう。ジョージは絶望の淵に立たされ、自殺を考える。その時、ジョージの守護天使クラレンスが現れ、ジョージがいなければ街がどれだけ悲惨な状態に陥っていたかを示す。ジョージの弟は戦争で命を落とし、友人や母は不幸に見舞われ、妻は独り身で子供もいなかった。人々の格差が広がり、街は希望を失っていた。この出来事を通じて、ジョージは自分の人生に価値があることを理解し、自殺を思いとどまる。そして、街の人々がジョージへの感謝の気持ちを込めて寄付をし、会社は倒産せず、彼の善行が報いられる。

グールドは科学が偶発性の概念を上手く扱ってこなかったのに対し、映画や文学は常に偶発性に魅了されてきたと書いている。彼によれば、生命もジョージのような出来事で満ちており、大きな出来事もあれば些細な出来事も、それらは未来の進化に影響を及ぼす可能性を秘めている。些細な変化も、歴史のテープをリプレイさせればまったく異なる歴史が展開されるという考え方である。この考えは、生物は特定の環境の下で適応するために、進化は予測可能だという考え方と対立し、議論をまきおこした。

素晴らしき哉、人生!」は人々に感動を与える映画であり、グールドの本と合わせて私たちに偶発性と人生の価値について深く考えさせてくれる作品である。