読書ノート:非色

有吉佐和子
河出文庫

1964年、随分古い作品だが。
 終戦直後、進駐軍として駐留していたアフリカ系アメリカ人の男性と国際結婚した日本人女性、笑子を主人公に、人種差別問題を主題とした小説。

 笑子は先に帰国した夫を追って渡米し、夫とハーレムの黒人街で暮らし、4人の子供を育てる。様々な場面で人種差別と直面する。衝撃的なのは、日本人として白人から差別されるのではなく、白人と結婚した日本女性による黒人と結婚した日本人女性への差別意識、黒人と結婚した日本人によるプエルトリコ人と結婚した日本人女性への差別意識が描かれていることだ。問題はそれだけにとどまらず、アメリカ人によるユダヤ人や日本人への差別、アフリカの黒人によるアメリカの黒人への差別だ。差別されている人が、その痛みをまぎらわすために、差別の対象を見つけ出す。
 
 「人間が生きていることを最低のところで支えているものは何なのだろうかと、私は考えてみないわけにはいかなかった。私は井村の前で、私がプエルトリコ人ではないと力説して殴り倒された。私がニグロの妻であり、母であることを自分に納得させているのは、ニグロがプエルトリコよりましな人種だからなのではないか。」
 
 「私にはどうもニグロが白人社会から疎外されているのは、肌の色が黒いという理由からではないような気がしてきた。白人の中でさえ、ユダヤ人、イタリヤ人、アイルランド人は、疎外され卑しめられているのだから。そのいやしめられた人々は、今度は奴隷の子孫であるニグロを肌が黒いといって、あるいは人格が低劣だといって、蔑視することで、自尊心を保とうとし、そしてニグロはプエルトリコ人を最下層の人種とすることによって彼らの尊厳を維持できると考えた。」
 
 夫の弟のシモンがアラバマで失業して、笑子の家に転がり込む。シモンは大食いで、彼女の家族のために買いためた食べものをすべて食べてしまう。職もみつからない。
 「私はシモンと暮らすようになってから、トムも含めてニグロに対する憎しみが次第に胸の中で育っていくのを感じていた。無教養で魯鈍な黒ん坊―彼らが疎外されるのは当たり前だ、そんな考えも固めていた。」
 
笑子が住み込みで働く雇い主とその友人の白人との会話。
「でもどうして優秀な日本人が、ニグロなんかと…」
笑子はその仕事をやめることを決意した。
 
有吉は1959年に渡米してニューヨークで数か月の留学生活を送った。