ヒトはなぜ歌うのか

Mehr, S. A., Krasnow, M. M., Bryant, G. A., & Hagen, E. H. (2021). Origins of music in credible signaling. Behavioral and Brain Sciences, 44, e60.

地球上に音楽を持たない民族は(おそらく)ない。したがって、音楽(歌)はヒトの進化の過程で生まれてきたのだろう。
Mehr et al. (2021)は、歌の起源として、(1) 集団の協力能力を主張するシグナルだった、(2) 育児のため、という仮説を提案している。

(1)集団内の協調力としての歌


多くの鳥や哺乳類は鳴き声によってなわばりを主張する。チンパンジーやライオン、オオカミなどの社会的肉食動物など、集団で縄張りを守る社会的動物は、協調的な音声による縄張り広告(咆哮、遠吠えなど)を行い、侵入者に対して集団の大きさを信頼できる形で知らせる。また、鳥や霊長類の二重唱のような協調的な音声信号には、複雑で時間的に同期したディスプレイを伴うものがある。信号発信者の間で高いレベルの同期協調を行うにはかなりの努力が必要であるため、長期的に協力する意思と能力を示すことができる。それによって、集団の規模以上に、集団を守る質を示す指標となる。

ヒトの祖先は同じような方法で縄張りの所有権を宣伝していたと考えられる:大きな声で協調的に発声したり、おそらく太鼓の音を用いたりして。論文の著者はこのような縄張りを示す発声は、音楽、特にリズム音楽の進化的な先駆けであると提唱している。

つまり、音楽は、集団が他の集団に対して自分たちの強さをアピールするための手段として進化してきたと考えられる。

2人以上の個人が、特別な目的やイベントのために、特別な種類や量の食べ物を共有する宴会を行う。宴会が集団間の同盟関係の形成に重要な役割を果たすとされる。宴会では多くの民族で歌やダンスを伴う。

今日でも、音楽演奏者間のみならずライブコンサートの湯に聴衆の間でも同調意識が生まれる。

(2) 親子間コミュニケーションツールとしての歌


親子間会話は、親子にとって重要な通話である。親子間の接触は、親が子自身で解決できない問題を解決するために利用できるなど、親子にとって相互の利益になる機能を果たす。例えば、チャクマヒヒの吠え声には、コンタクトコールに使われる音色の豊かなものから、アラームコールに使われるノイズの多い厳しい構造のものまである。生後6ヶ月までに、乳児は鳴き声の種類を識別できるようになり、母親の鳴き声と無関係の女性の鳴き声を識別できるようになる。

子供は親からの世話を受けることで適応度が増すため、親から注目されていることを望む。泣いて注意を向けさせる。それに対して、親も音声によって注目していることを伝える。親子間のコミュニケーションでは、縄張り信号から発達するリズミカルな特徴とは対照的に、親と子の接触による癒しの声という、より控えめな文脈から、メロディー的な特徴が生まれると予想され、その典型が、今日私たちが乳児に歌っている子守歌だという。

これを支持する3つの事実がある。第一に乳幼児向けの歌が世界中で特徴を共有する。

第二は遺伝的な障害によって示される。アンジェルマン症候群は母親への投資要求が増大し、プラダ―ウィリー症候群では母親への投資要求が減少する。そして、アンジェルマン症候群の人は、音楽よってリラックスしにくく、プラダーウィリー症候群の人は、音楽によってリラックスしやすい。これらの結果は、音楽が親による注目を伝えるという考えを支持する。アンジェルマン症候群でリラックスできないことは、母親への要求の増加を意味し、プラダーウィリー症候群でたやすくリラックスできることは母親への要求の減少を意味する。

第三に、霊長類のコンタクトコールとヒトの幼児向け歌の音響的特徴との間に関係があることも予想される。例えば、ヒヒのコンタクトコールはハーモニーが豊かであるのに対し、アラームコールは粗く騒々しい。