タコとカニの動物愛護

欧米では動物愛護をめぐって、日本人からみると大変なことになっている。英国政府は2021年にタコやカニ、ロブスターを「感覚(sentient)」のある動物として、動物福祉の対象とした。感覚は英国の動物福祉委員会は、「感覚」を痛み、苦痛、または害を経験する能力と定義している(AWC, 2018)。感覚は侵害受容(nociception)とは区別される。侵害受容とは、害をもたらす刺激を検知することであり、痛みのようなものであるが、同じではない。神経を持たない単細胞生物であるゾウリムシは化学物質や捕食者との接触に反応して逃走反応をおこす。このように侵害受容は感覚を必要としない。

 

タコやカニを動物福祉の対象とする根拠となったのが、Birch et al. (2021)によるレビューである。感覚は脊椎動物だけのもので無脊椎動物には存在しないという定説への疑問から出発した。2012年、「意識に関するケンブリッジ宣言」(Low et al.、2012年)は、意識的な存在は人間だけではないという科学的合意を示した。さらに、「すべての哺乳類と鳥類を含む人間以外の動物、およびタコを含む他の多くの生物」は、意識的な経験を支えるのに十分な複雑な神経基盤を有しているとした。

 

そうした背景のもとで、Birch et al. (2021)は、対象となる動物が感覚を持つ科学的証拠を評価するための8つの基準を示した。
1)侵害受容器の保有
2)統合的な脳領域の所有。
3)侵害受容器と統合的な脳領域との間の接続。
4)潜在的な局所麻酔薬や鎮痛薬によって影響を受ける反応。
5) 報酬の機会に対する脅威のバランスを示す動機づけのトレードオフ
6)傷害や脅威に対する柔軟な自己防衛行動。
7) 慣れや感化を超えた連想学習。
8) 怪我をしたときに、動物が局所麻酔薬や鎮痛剤に価値を見出す行動。

これらの基準はひとつでも満たせば感覚を持つ証拠となるものではなく、総合的に評価される。特に基準1は感覚を持たない動物であっても容易に満たすものである。

 

タコについては、基準1、2、3、4、6、7、8を満たすという確信が高いか非常に高く、基準5を満たすという確信が中程度であった。

 

カニについては、基準1、2、4、6、7を満たすという確信が高いか非常に高いとされた。

 

論文では、これらの動物の捕獲や養殖、屠殺についての注意事項も書かれている。

Birch, J., Burn, C., Schnell, A., Browning, H., & Crump, A. (2021). Review of the evidence of sentience in cephalopod molluscs and decapod crustaceans.

 

ちなみに、日本の動物愛護管理法では、愛護動物とは「人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの」とされている。国際的には両生類は保護対象に含まれるし、日本の多くの大学では魚類を用いる実験も申請対象とされている。

次に、無脊椎動物の「意識」について書く。