昆虫福祉

食品・飼料としての昆虫(IAFF)産業は現在、年間1兆匹以上の昆虫を養殖しているが、2030年までに年間8兆匹以上が養殖されるかもしれない(Rowe 2020; de Jong & Nikolik 2021)。また、ヨーロッパにおける昆虫タンパク質の生産量は5千トンと推定されており、2025年には100万トンを超えると予想されている。

 

動物愛護感情の高まりから、牛、豚、鶏などの飼育については、劣悪な環境が批判され、飼育環境が改善されつつある。では、昆虫の場合はどうだろうか。

 

昆虫に感覚はあるのだろうか?現在のところ、決定的な答えは得られない。さらに、感覚を重視することに疑問を呈する理由があるかもしれない。

 

不確定な問題に対しては予防原則の考え方で対応することが望ましい。最も極端な仮定は昆虫が苦痛や幸福といった感覚を持っていると考えることだ。しかし、それより弱い仮定を置くこともできる。国際昆虫食プラットフォームでは、「昆虫生産における動物福祉の高い標準」を設けている(IPFF 2019)。それによると、1965年に発表された「集中的家畜飼育システム下で飼育される動物の福祉を調査する技術委員会の報告書、ブランベル報告書」に準じて、以下の5項目を守るべきだとしている。

 

1. 飢えと渇きからの解放
輸送中および収容中に十分な食料と水を提供すること。 適切な温度と換気条件を提供すること。

2. 不快感からの解放
昆虫の生理的欲求を尊重し、空調管理など昆虫が最適に成長するための環境を提供する。
可能な限り、輸送時間を制限し、輸送中の十分な温度と換気を確保し、自然の生息域の範囲内にとどめるなど、最適な輸送条件を目指す。

3. 痛み、怪我、病気からの解放
昆虫を傷つける可能性のある材料の使用は控える。
それぞれの種のニーズに合わせて、最適な密度と十分なスペースを管理し、共食いを制限する。 苦痛を与える可能性のあるリスクを低減するため、昆虫の迅速な死を保証する殺虫方法のみを使用する。

4. 正常な行動を表現する自由
それぞれの種のニーズに応じて、最適な温度、光、湿度、密度を提供し、正常な行動パターンを可能にする住居または飼育方法のみを使用する。

5. 恐怖や苦痛からの解放
昆虫が恐怖や苦痛を感じる可能性に関して、最新の科学的知見を常に把握する。

 

さらに、以下の注意点を指摘している。
脊椎動物無脊椎動物は生理や生態が異なり、昆虫の中には過密条件でより成長できる種もいる。そのため、種ごとに飼育条件を考慮する必要がある。脊椎動物では殺処分の際に苦痛を少なくするために麻酔後に失血死させる方法などが使われるが、昆虫の場合は冷凍や加熱など他の方法をとる必要がある。

 

また、現時点では昆虫は神経系が発達していないため、痛みを感じないと考えられている。しかし、無脊椎動物が幸福感や痛みを感じるかどうか、それらの感覚はすべての昆虫種に等しく適用されるのか、また、どの生理的段階で適用されるのかについては、知識不足だとしている。(無脊椎動物の感覚については、別に書くつもりである。

 

最後に以下のように提言している
1.     すべての昆虫生産者は、高水準の動物福祉と昆虫の幸福への配慮を遵守すること。

2.     この分野における新たな政策や法律は、科学的根拠に基づき、昆虫種の特異性や昆虫工業生産の技術的現実を考慮したものでなければならない。

3.     昆虫福祉に関する研究のために、より多くの資金を提供すること。

生産活動におけるベストプラクティスを推進しながら、昆虫生産者のための公正な解決策を最大化するために、EUの意思決定者および非機関パートナーとの継続的な対話が必要。