病原ウイルスとの共存

ウサギ Wikipediaより

新型コロナウイルスは次々と変異して流行を広げている。病原ウイルスはしだいに弱毒化して、インフルエンザのような病気に変わるという人もいる。はたしてそうなるのだろうか。

 

 ウイルスと宿主の関係について、オーストラリアのアナウサギと粘液腫ウイルスの関係が有名である。オーストラリアにはもともとウサギはいなかった。しかし、1859年にイギリスから輸入された24匹のアナウサギが急速に繁殖し、1920年代には100億匹ほどに増加した。ウサギは野生の草木や牧草、農作物に大きな被害を及ぼすようになった。アナウサギを駆除することは急を要した。そこで考えられたのが、南アメリカのウサギの病気である粘液腫ウイルスの利用であった。このウイルスは南アメリカのウサギを殺すことはないが、ヨーロッパのアナウサギは感染すると99%が死んでしまう。

 

 1950年にビクトリア州北部とニューサウスウェールズ州南部のマレーバレー周辺で感染実験が開始された。次第にウイルスに感染したウサギが増え、個体数は10%以下に減少したと推定された。しかし、このウイルスは蚊によって媒介されるため、感染は河川に沿った地域では高く、乾燥地では低かった。

 

しかし、1952年の調査では、致死率は90%に低下し、ウイルスは弱毒化したことが明らかになった。弱毒化によって、感染したウサギの生存期間が長くなり、他の個体を感染させるチャンスが増加した。

 

一方で、ウサギの抵抗性が増加した。7年(7世代)で毒性グレード3のウイルスによる死亡率は90%から26%に低下した。弱毒化と抵抗性の増加によって、オーストラリアのウサギは再び増加した。

(以上、Kerr (2012) Antiviral Research 93:387-415)

 

新型コロナウイルスの場合、致死率はウサギの粘液腫ほど高くはない。致死率の違いによって、病原性が変化するレベルではない。感染力が高く、かつ致死率の高い変異が生じる可能性は否定できない。しかし、症状の重さによって人の行動や隔離程度が変化するため、症状が軽い変異株が感染のチャンスが大きいと言える。人の抵抗性を遺伝的に進化させるには、その病気による繁殖前の個体の死亡率が高いことと、数世代におよぶ自然選択が必要である。新型コロナに抵抗性を持つ人の進化はおこりそうにない。ワクチンと治療薬で解決するしかなさそうだ。