里山がどう変わったのか 3

3.都市に飲み込まれる里山と森に還る里山

 生物多様性国家戦略では生物多様性の4つの危機を挙げている。(1)開発,(2)自然への働きかけの低下,(3)外来種や化学物質、(4)気候変動である。環境省レッドリストに掲載されている被子植物について、危険性の要因のうち,森林伐採と開発行為が50%、自然遷移と管理放棄が17%を占める。里山そのものにとって,開発と撤退がふたつの大きな脅威である。

 人口集中地区(DID)を都市化の指標として,大阪府で1960年から都市拡大面積を見ると2.7倍に拡大した(図4)。都市化によって失われたのは丘陵地で,2006年の土地利用データでは,面積の65%は都市化した。岩石でできた山地と異なり,丘陵地は固結していない堆積物から構成され,地下の粘土層の上にある砂や砂利の層を水が流れ,谷部で湧き出し,湿地を形成する。また,谷に開かれた水田と尾根や斜面の樹林が複雑な景観を作り出す典型的な里山である。

図4.都市に飲み込まれる里山 緑色:丘陵地,黒色:人口集中地区 国土数値情報人口集中地区,1/200000土地分類基本調査地形分類図より作成

 都市化の影響は直接的な里山の消失だけでない。隣り合う土地の種類が変わることによって,エッジの質と量が変化する16)(図5)。里山里山を構成する生育場所が分断されることも大きい。植物の場合,孤立林は元々の広い範囲から小さな部分を拾い出すため,構成種数が減少し,さらに孤立後の時間を経るにつれて,種数が減少することが知られている17-18)。昆虫や動物でも,都市化とともに里山の種が消滅する経過が知られている19-20)

図5.林と接する水田の減少 1976年から2006年の間で,赤色は林と接する水田が著しく減少したメッシュ,黄色は減少したメッシュ,緑は増加したメッシュ.単位3次メッシュで約1km四方.国土数値情報土地利用細分メッシュ昭和51年度および平成18年度より作成

 一方,中山間地では,草地だけでなく水田や畑も放棄され,スギやヒノキの植林地とされたり,二次林へと遷移していく場所が増えている。二次林では,マツノザイセンチュウ被害と植生遷移によるアカマツ林の減少が著しく21),最近はシカによる下層植生の壊滅的な変化が全国から報告されている22])耕作放棄や遷移などの変化は,それぞれの土地被覆の量の変化だけにとどまらず,土地被覆の配置やエッジの変化を伴っている。かつての里山は,集落を中心に耕作地が位置し,水源の得られる緩傾斜地は水田として利用され,その周辺は畑地や採草地や陰伐地として利用された。その周辺には茅場などの半共有地があり,その外側に日常に利用する薪炭林や人工林が位置していた。集落を中心とする同心円上の最も遠い位置には共有林となる森林があった23)。それが,化石燃料や化学肥料の導入によって価値が低下すると同時に,パルプ需要や拡大造林,さらには人口そのものの減少によって,樹林のタイプやランドスケープの構造が大きく変化した24)